30年の診療で見えてきた「歯を失う人」の共通点

最終更新日 2025年9月29日 by boyjackcl

40代、50代のあなたへ。

鏡を見て、歯茎が少し下がってきたと感じたり、冷たいものがしみる回数が増えたりしていませんか。

私は歯科医師として30年間、数えきれないほどの患者さんの口の中を診てきました。

その中で、歯を失う方と、80歳になっても健康な歯を20本以上保っている方との間に、明確な「意識と習慣の差」があることに気づきました。

厚生労働省のデータによると、日本の80歳代の平均残存歯数は、80~84歳で19.1本、85歳以上で14.5本です。

一方、予防歯科が根付いているスウェーデンでは、平均21本と、大きな差が開いています。

この差は、単なる遺伝や運ではありません。

この記事では、私が30年の臨床経験と最新の医学的知見から見えてきた、「歯を失う人」に共通する三大要因を包み隠さずお伝えします。

この共通点を知り、今日から習慣を変えることができれば、あなたの歯の未来は必ず変えられます。

歯を失う人の三大共通点:病気の進行と「意識の差」

歯を失う原因の約7割は、「歯周病」と「むし歯」が占めています。

しかし、私が診療を通して感じてきたのは、単に病気にかかったこと以上に、その病気に対する「意識の差」こそが、歯の寿命を分ける最大の共通点だということです。

共通点1:自覚症状のない「沈黙の病気」を見逃している

歯を失う原因の第1位は、歯周病です。

40代以降になると、実に半数以上の方が歯周病にかかっているか、その予備軍であると言われています。

にもかかわらず、多くの方が「自分は大丈夫」と思っています。

なぜなら、歯周病は痛みなどの自覚症状がほとんどなく、静かに進行する「沈黙の病気」だからです。

歯を失う人の多くは、「歯茎から血が出ても、そのうち治ると思っていた」「少し歯がグラグラしても、歳のせいだと諦めていた」と語ります。

私の経験から言えるのは、「歯のトラブルは“ちょっとした違和感”の段階で気づけるかどうかが鍵」だということです。

この小さなサインを見逃し、「痛くなってから」歯科医院を訪れる習慣こそが、歯を失う人々の最も大きな共通点なのです。

共通点2:神経を抜いた歯の「時限爆弾」を意識していない

歯を失う原因の第3位は「歯の破折(割れること)」です。

これは、特に神経を抜いた歯に起こりやすいトラブルです。

神経を抜いた歯は、水分や栄養が行き届かなくなり、例えるなら枯れ木のように脆くなります。

さらに、大きな詰め物や被せ物をしていることが多く、噛む力による負担が集中しやすい状態です。

歯を失う人は、過去に治療した歯が「もう治ったもの」として、その後のケアや負担を意識していません。

  • 神経を抜いた歯が脆いこと
  • 歯ぎしりや食いしばりによる過度な力がかかっていること
  • 噛み合わせのバランスが崩れていること

これらが複合的に作用し、ある日突然、歯が縦に割れてしまい、抜歯せざるを得なくなるケースを、私は数多く見てきました。

これは、治療後のメンテナンスと、噛み合わせを含めた「歯の構造的な寿命」を意識していないことの表れです。

共通点3:「痛いときだけ歯医者に行く」という習慣

歯を失う人と、健康な歯を保つ人を分ける最大の習慣の違いは、「予防」への意識です。

日本の歯科検診受診率は、最新のデータでも約50%台と、予防先進国に比べて非常に低い水準にあります。

定期検診を受けている人とそうでない人を比べると、定期検診を受けている人の方が、明らかに多くの歯を残していることが、統計的にも明らかになっています。

歯を失う人の共通点は、「歯が痛い」「詰め物が取れた」など、何らかのトラブルが起きてから初めて歯科医院を訪れることです。

これは、火事が起きてから消防車を呼ぶようなものです。

歯科医療の目的は、病気を治す「治療」から、病気を未然に防ぐ「予防」へとシフトしています。

歯を残す人は、トラブルがない時こそ、プロの目でチェックしてもらう「予防の習慣」を人生の一部として取り入れているのです。

歯を残す人が実践している「予防の黄金律」

では、30年の診療で私が「この方は歯を残せるだろう」と感じた患者さんが実践していた「予防の黄金律」をご紹介します。

黄金律1:歯ブラシだけでは不十分!「歯間ケア」の徹底

毎日の歯磨きは基本中の基本ですが、歯ブラシだけで落とせる汚れは全体の約6割程度に過ぎません。

特に歯周病の原因菌が潜むのは、歯と歯の間や、歯と歯茎の境目です。

歯を残す人は、必ずと言っていいほど、以下の歯間ケアアイテムを日常的に使用しています。

ケアアイテム主な役割
デンタルフロス歯と歯の間の狭い隙間のプラーク除去
歯間ブラシ歯と歯の間や歯茎が下がった部分の大きな隙間のプラーク除去
ワンタフトブラシ歯並びの悪い部分や奥歯の裏側など、磨きにくい部分のピンポイントケア

これらの「ひと手間」をかける観察力と丁寧さが、歯の寿命を延ばす鍵となります。

これは、私の趣味である俳句や陶芸にも通じる、「細部にまで気を配る」姿勢そのものです。

黄金律2:全身の健康と口腔ケアをリンクさせる

学生時代の恩師から、「歯だけでなく人間を診る」という教えを受けました。

これは、口腔内のトラブルは、その人の生活習慣や全身の健康状態と密接に関わっているという意味です。

歯周病は、糖尿病や喫煙、ストレスといった生活習慣病と相互に悪影響を及ぼし合うことが分かっています。

歯を残す人は、単に歯を磨くだけでなく、自分の健康全体を見直す視点を持っています。

  • 喫煙習慣の見直し
  • バランスの取れた食事
  • 十分な睡眠とストレス管理

これらの生活習慣の改善が、歯周病の進行を食い止め、結果として歯の寿命を延ばすことにつながります。

黄金律3:3〜4ヶ月に一度の「プロのメンテナンス」を習慣化

歯を残す人の最大の共通点は、歯科医院を「治療の場」ではなく、「メンテナンスの場」として活用していることです。

3〜4ヶ月に一度の定期検診では、以下のようなプロによる徹底したケアとチェックが行われます。

  1. 歯周ポケット検査:歯周病の進行度を数値で把握し、早期の悪化を発見します。
  2. プロフェッショナルクリーニング:セルフケアでは落としきれない、歯石やバイオフィルムを徹底的に除去します。
  3. 噛み合わせチェック:歯の破折につながる過度な負担がかかっていないかを確認し、調整します。

このプロの目による定期的なチェックこそが、自覚症状のない「沈黙の病気」を初期段階で発見し、歯を失うという最悪の事態を回避する最も確実な方法なのです。

まとめ:今日から始める「歯の寿命を延ばす」最初の一歩

30年の臨床経験から見えてきた「歯を失う人」の共通点は、病気の進行そのものよりも、「ちょっとした違和感」や「治療後の安心感」に潜む危険性を見逃す意識の差でした。

歯の寿命を延ばすために、今日からできる最初の一歩は、以下の3つのポイントを意識することです。

  1. 違和感を放置しない:歯茎からの出血や、歯のグラつきを「歳のせい」と諦めない。
  2. 歯間ケアを習慣化:歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシを必ず使う。
  3. 予防歯科への転換:「痛いときだけ」ではなく、3〜4ヶ月に一度のプロのメンテナンスを予約する。

歯のトラブルは、初期段階で気づき、適切な「手間」をかけることで、必ず食い止めることができます。

あなたの人生を支える大切な歯を、一緒に守っていきましょう。