最終更新日 2025年8月27日 by boyjackcl
初めて入れ歯をお使いになるあなたへ。
期待よりも不安のほうが大きいかもしれませんね。
歯科医師として30年間、多くの患者さんと入れ歯のスタートを共にしてきた経験から、まずお伝えしたいのは「焦らなくて大丈夫ですよ」ということです。
入れ歯は、失った歯の機能を取り戻し、食事や会話を再び楽しむための大切なパートナーです。
しかし、お口の中に新しいものが入るのですから、最初は違和感があって当たり前。
この記事では、慣れるまでの期間の目安や、痛み、食事、会話といった具体的なお悩みへの対処法を、私の臨床経験を交えながら丁寧にご説明します。
この記事を読み終える頃には、きっと入れ歯との上手な付き合い方が見つかるはずです。
一緒に、快適な入れ歯ライフへの第一歩を踏み出しましょう。
目次
なぜ違和感が?歯科医師が解説する「入れ歯と体が慣れる仕組み」
お口はとても敏感な場所
まず知っていただきたいのは、お口の中がいかに繊細な場所かということです。
髪の毛がたった1本入っただけでも、すぐに気づきますよね。
それほど敏感な場所に、入れ歯という比較的大きな「異物」が入るのですから、脳が過剰に反応してしまうのは自然なことです。
「口の中が狭く感じる」「唾液がたくさん出る」「なんだか気持ち悪い」
これらはすべて、体が新しい環境に慣れようとしている正常な反応です。
私のクリニックに来られる患者さんも、最初は皆さんそうおっしゃいますよ。
入れ歯が安定するまでの「慣らし運転」
新しい靴を買ったとき、すぐに足に馴染まないのと同じように、入れ歯にも「慣らし運転」の期間が必要です。
入れ歯が歯茎や顎の骨にしっかりとフィットし、お口周りの筋肉や舌がその存在に慣れるまでには、ある程度の時間が必要になります。
この期間は、体が新しい環境に適応していくための大切な準備期間だと考えてください。
焦らず、少しずつ慣らしていくことが、快適な入れ歯ライフへの一番の近道です。
入れ歯に慣れるまでの期間は?30年の臨床経験から見る目安
平均は1ヶ月、でも個人差がある理由
「一体、いつまでこの違和感が続くの?」
これは、患者さんから最も多くいただく質問の一つです。
多くの患者さんを診てきた私の経験から言うと、一般的な目安は2週間から1ヶ月程度です。
実際、厚生労働省の調査によると、後期高齢者の約3割が総入れ歯を使用しており、多くの方が入れ歯との生活を送っています。
しかし、これはあくまで平均的な期間であり、お口の状態や入れ歯の種類(総入れ歯か部分入れ歯か)、そしてご本人の感覚によって大きく異なります。
大切なのは、他人と比べるのではなく、ご自身のペースでゆっくりと慣れていくことです。
慣れるまでの3つのステップ
私の臨床経験に基づき、慣れるまでの期間を3つのステップに分けてご説明します。
ご自身が今どの段階にいるのかを知ることで、少し気持ちが楽になるかもしれません。
ステップ①:違和感・痛みとの闘い期(〜1週間)
- 最も違和感が強い時期です。
- 痛みが出やすいのもこの時期の特徴です。
- 食事や会話がしづらく、ストレスを感じやすいかもしれません。
- 大切なこと:痛みを我慢しないこと。まずは歯科医院に相談しましょう。
ステップ②:食事・会話の練習期(〜3週間)
- 強い違和感が少しずつ薄れてきます。
- 食事や会話のコツを掴み始める時期です。
- まだ痛みが出ることがありますが、調整を重ねることで改善していきます。
- 大切なこと:焦らず、色々な食事や会話にチャレンジしてみましょう。
ステップ③:生活の一部になる安定期(1ヶ月〜)
- 入れ歯がお口に馴染み、意識せずに使えるようになります。
- 食事や会話も、入れ歯がない頃と同じように楽しめるようになります。
- この段階になれば、入れ歯はあなたの体の一部です。
- 大切なこと:快適な状態を維持するため、定期的なメンテナンスを続けましょう。
【悩み別】歯科医師直伝!初めての入れ歯と上手に付き合う実践テクニック
「痛み」があるあなたへ:我慢は禁物、まずは歯科医に相談を
入れ歯による痛みは、決して「当たり前」ではありません。
痛みの主な原因は、入れ歯が歯茎の特定の部分に強く当たっていたり、噛み合わせが合っていなかったりすることです。
「これくらいなら大丈夫だろう」と我慢してしまうと、傷ができてしまい、さらに強い痛みの原因になることもあります。
「こんな些細なことで連絡していいのかしら…」と遠慮する必要は全くありません。
痛みを感じたら、まずはかかりつけの歯科医院に連絡してください。
ほとんどの場合、簡単な調整で痛みは劇的に改善します。
「食事」がうまくできないあなたへ:焦らず、段階的に慣らすコツ
最初は、思うように食事ができず、もどかしい思いをするかもしれません。
でも大丈夫、必ず慣れますから安心してください。
私がいつも患者さんにお伝えしている、食事に慣れるための3つの基本原則をご紹介します。
- 柔らかいものから始める:お豆腐、おかゆ、茶碗蒸し、よく煮込んだうどんなど、無理なく食べられるものから始めましょう。
- 小さく切って食べる:食材はあらかじめ小さく切っておくと、噛む負担が少なくなります。
- 左右均等にゆっくり噛む:片側だけで噛むと入れ歯が傾きやすいので、両方の奥歯でゆっくり、均等に噛むことを意識しましょう。
「会話」がしづらいあなたへ:発音は練習で必ず改善します
入れ歯を入れた直後は、舌の動きが制限されて、特に「サ行」や「タ行」が発音しにくくなることがあります。
これも、舌が新しい入れ歯の形を覚えれば、必ず改善していきます。
少し恥ずかしいかもしれませんが、ご自宅で発音の練習をしてみるのがおすすめです。
- 新聞や本を音読する
- 早口言葉を言ってみる
- ご家族や親しい友人と積極的に会話する
練習を続けることで、舌の筋肉が新しい環境に適応し、驚くほどスムーズに話せるようになりますよ。
歯科医師が教える毎日のお手入れ|入れ歯を長持ちさせる秘訣
入れ歯は、あなたの大切な体の一部です。
毎日適切にお手入れすることで、快適な状態を長く保つことができます。
基本の洗浄ステップ
- 毎食後、外して流水で洗う:食べ物のカスを洗い流します。これが基本中の基本です。
- 就寝前は、専用ブラシで丁寧に磨く:入れ歯専用のブラシを使い、優しく磨きましょう。
【田島先生からのワンポイントアドバイス】
歯磨き粉は、入れ歯の表面を傷つけてしまう研磨剤が含まれていることが多いので、絶対に使わないでくださいね。 - 洗浄剤に浸けておく:磨いただけでは落ちない目に見えない細菌を、入れ歯洗浄剤で除菌します。
保管方法と注意点
入れ歯は、乾燥すると変形したり、ひび割れたりすることがあります。
夜、外している間は、必ず水を入れた専用の容器に入れて保管してください。
旅行や外出の際も、必ず保管ケースを持参し、乾燥させないように注意しましょう。
「作って終わり」ではありません。歯科医院との上手な付き合い方
なぜ定期的な調整が必要なのか
入れ歯を作った後も、私たちの顎の骨や歯茎は、少しずつ変化していきます。
そのため、最初はぴったりだった入れ歯も、時間と共に合わなくなってくるのです。
合わない入れ歯を使い続けていると、痛みが出るだけでなく、残っている健康な歯にまで負担をかけてしまうことがあります。
快適な状態を維持し、残っている歯を守るためにも、定期的なメンテナンスは非常に重要です。
一般的には、少なくとも年に1回は、かかりつけの歯科医院で検診を受けることをお勧めします。
歯科医師に伝えるべきこと
調整のために歯科医院に行く際は、遠慮せずに、感じたことをそのまま伝えていただくのが一番です。
- 「どこが」(例:右の奥歯の外側)
- 「いつ」(例:食事の時、特に硬いものを噛んだ時)
- 「どのように」(例:ズキっと痛む、擦れる感じがする)
このように具体的に伝えていただけると、私たち歯科医師も、より的確な調整を行うことができます。
「先生にこんなことを言っていいのかな?」などと心配せず、何でもお話しくださいね。
よくある質問(FAQ)
Q: 入れ歯安定剤は使ってもいいですか?
A: 安定剤は、どうしても痛みが我慢できない時や、大切な予定がある時などに、一時的に使用する「お助けアイテム」と考えてください。日常的に使わないと入れ歯が安定しない場合は、入れ歯自体が合っていない可能性が高いです。自己判断で使い続けず、まずはかかりつけの歯科医師にご相談ください。
Q: 夜、寝るときは入れ歯を外すべきですか?
A: はい、原則として外すことを強くお勧めします。日中、入れ歯を支えて頑張ってくれた歯茎を休ませ、お口の中の血行を促進するためです。また、入れ歯を清潔に保ち、誤って飲み込んでしまう事故を防ぐ意味でも、外して洗浄・保管するのが基本です。
Q: 入れ歯にしてから味がしない気がします…
A: 特に上顎を大きく覆うタイプの総入れ歯の場合、味を感じる部分が覆われてしまい、一時的に味覚が鈍くなることがあります。これは、慣れと共に改善していくことが多いですが、どうしても気になる場合は、熱が伝わりやすく、薄く作れる金属床の入れ歯にすることで改善される場合もありますので、ご相談ください。
Q: 部分入れ歯のバネをかけている歯が痛むのですが…
A: それは、バネの調整が必要なサインかもしれません。我慢して使い続けると、バネをかけている大切な歯にダメージを与えてしまう可能性があります。できるだけ早く、歯科医院で調整してもらってください。
Q: 調整は何回くらい通う必要がありますか?
A: 個人差が非常に大きいですが、新しい入れ歯の場合、最初の1ヶ月で2〜3回の調整が必要になるのが一般的です。あなたのお口にぴったり合うまで、私たち歯科医師が責任を持ってサポートしますので、根気強く一緒に調整していきましょう。
まとめ
初めての入れ歯との生活、いかがでしたでしょうか。
30年間、歯科医師として多くの患者さんの「初めて」に立ち会ってきましたが、最初は誰もが不安なものです。
大切なのは、焦らず、ご自身のペースで一歩ずつ慣れていくこと。
そして、痛みや違和感を我慢せず、信頼できる歯科医師に相談することです。
入れ歯は、あなたのこれからの人生で、食事や会話を楽しむための頼もしいパートナーになります。
この記事が、あなたがそのパートナーと良い関係を築くための一助となれば幸いです。
何か困ったことがあれば、いつでもかかりつけの先生を頼ってくださいね。