最終更新日 2025年6月27日 by boyjackcl
こんにちは、歯科医師の田島です。
最近、ドラッグストアなどで「歯を白くする」とうたった製品を手軽に見かけるようになりましたね。
「歯科医院は敷居が高いけれど、これなら…」と、つい手に取ってみたくなるお気持ち、よく分かります。
ですが、長年皆さまのお口の健康を拝見してきた立場からすると、少しだけお待ちいただきたいのです。
市販の製品には、知っておいていただきたい大切な注意点があります。
この記事では、なぜ「危ない」と言われることがあるのか、その理由と、ご自身の歯を大切にしながら白さを目指すための知識を、皆さまに寄り添う形でお話ししていきます。
大切な歯だからこそ、正しい知識でケアを選んでいきましょう。
目次
なぜ「危ない」と言われる?市販品と歯科医院の根本的な違い
まずご理解いただきたいのは、市販品と歯科医院で使う「ホワイトニング」という言葉は、意味が全く異なるという事実です。
ここを知らないまま自己判断でケアを始めると、思わぬトラブルにつながることがあります。
歯科医院の「ホワイトニング」は歯を“漂白”する医療行為
私たち歯科医師が提供するホワイトニングは、「過酸化水素」や「過酸化尿素」といった医薬品を使います。
これらの成分は、歯の内側にある象牙質の色素を分解し、歯そのものを内側から白くする「漂白」作用があります。
これは、歯科医師・歯科衛生士の管理下でのみ許可された専門的な医療行為なのです。
市販品の「ホワイトニング」は歯の表面の“着色除去”が目的
一方、ドラッグストアなどで手に入るホワイトニング歯磨き粉などには、先ほどの医薬品成分は含まれていません。
これらの主な目的は、コーヒー、お茶、タバコのヤニなどによって歯の表面に付着した「着色汚れ(ステイン)」を研磨剤などで削り落とすことです。
つまり、歯本来の色以上に白くする効果はなく、あくまで表面をキレイにする「着色除去」が目的となります。
知っておきたい3つのリスク
市販品を使う上で、ベテラン歯科医師として特に知っておいていただきたいリスクが3つあります。
- 1. 研磨剤による歯の摩耗
研磨剤(清掃剤)が多く含まれる製品で強く磨きすぎると、歯の表面のエナメル質が傷ついてしまいます。
その細かい傷に汚れが入り込み、かえって着色しやすくなったり、知覚過敏を引き起こしたりする原因になります。 - 2. 酸によるエナメル質の損傷
一部の製品には、汚れを落とすために酸性度の高い成分が含まれていることがあります。
酸は歯の表面を少しずつ溶かしてしまう(酸蝕)リスクがあり、注意が必要です。 - 3. 不適切な使用による歯茎へのダメージ
自己判断での使用、特に海外製の高濃度な製品などを不適切な方法で使うと、薬剤が歯茎に付着して炎症を引き起こす可能性があります。
【種類別】ここに注意!市販ホワイトニング製品のポイント
市販品には様々なタイプがありますが、それぞれに注意点があります。
ご自身の歯を守るためにも、ぜひ知っておいてください。
歯磨き粉タイプ
最も手軽なタイプですが、研磨剤の種類と配合量には注意が必要です。
成分表示に「清掃剤」として書かれている「無水ケイ酸」「炭酸カルシウム」などを確認し、ゴシゴシと力を入れて磨きすぎないことが大切です。
最近では、「ポリリン酸ナトリウム」のように、汚れを浮かせて落とすタイプの成分もあります。
歯の表面を傷つけにくい、こうした成分に着目するのも一つの選び方ですね。
歯の消しゴム・マニキュアタイプ
歯の表面をこする「消しゴム」タイプは、研磨力が非常に強い製品が多く、歯の表面を傷つけるリスクが高いと言えます。
一時的に汚れが落ちたように感じても、歯に細かい傷をつけてしまうと、将来的にさらに着色しやすい歯になってしまう可能性があります。
また、歯に白い塗料を塗る「マニキュア」タイプは、あくまで一時的なもの。
塗りムラができやすく、毎日の歯磨きですぐに落ちてしまうというデメリットも覚えておきましょう。
マウスピース・シートタイプ
既製品のトレーやシートは、当然ながら一人ひとりの歯並びにぴったり合うわけではありません。
そのため、薬剤が均一に行き渡らずに色ムラの原因になったり、薬剤が歯茎に漏れ出て炎症を起こしたりするリスクがあります。
【歯科医師からの警告】
特に注意していただきたいのが、インターネットなどで見かける海外製の高濃度製品です。
日本人は欧米人に比べて歯のエナメル質が薄い傾向にあります。
そのため、海外の基準で作られた強い薬剤は、歯や歯茎に深刻なダメージを与える危険があるのです。
安易な個人輸入は絶対に避けてください。
40代からのあなたへ。こんな方は特に注意が必要です
長年、多くの患者さまを診てきた経験から、特に40代以上の方には、ホワイトニングを始める前にご自身のお口の状態をしっかり確認していただきたいと願っています。
以下に当てはまる方は、自己判断でのケアは禁物です。
虫歯や歯周病の治療が途中の方
虫歯や歯周ポケットがある状態でホワイトニング剤を使うと、薬剤の刺激が神経に伝わって強い痛みが出たり、症状が悪化したりするリスクがあります。
ホワイトニングは、お口の中が健康な状態で行うのが大前提。
まずは、治療をしっかりと完了させることを最優先してください。
知覚過敏の症状がある方
冷たいものがしみる…といった知覚過敏の症状がある方は、ホワイトニング剤の成分によって症状が悪化する可能性があります。
「歯を白くしたい」というお気持ちはよく分かりますが、まずはその「しみる」原因を突き止めることが大切です。
必ずかかりつけの歯科医師に相談しましょう。
詰め物・被せ物が多い方
これはとても重要なポイントです。
ホワイトニングで白くなるのは、ご自身の天然の歯だけです。
過去に治療した詰め物や被せ物といった人工の歯は、一切色は変わりません。
そのため、ご自身の歯だけが白くなり、人工の歯との色の差が目立って、かえって不自然な見た目になってしまうことがあるのです。
安全に歯の白さを目指すために|ベテラン歯科医師からの提案
では、どうすれば安全に、そして確実に歯の白さを目指せるのでしょうか。
私からの提案は、とてもシンプルです。
市販品と上手に付き合うなら
もし市販品を使いたいのであれば、「歯を白くする」という攻撃的な目的ではなく、「これ以上着色させない」という予防目的で使うのが賢明です。
具体的には、以下のような製品を選ぶと良いでしょう。
- 研磨剤の配合が少ない、または粒子が細かいもの
- ステインの付着を防ぐ「ポリリン酸ナトリウム」などが含まれたもの
- 歯の表面のミクロの傷を修復する「薬用ハイドロキシアパタイト」などが含まれたもの
そして何より、優しい力でブラッシングすることを心がけてください。
やはり一番の近道は「かかりつけ医」への相談
歯が黄ばんで見える原因は、本当に人それぞれです。
長年の着色汚れなのか、加齢による象牙質の色の変化なのか、あるいは何か別の原因があるのか…。
これを正確に診断できるのは、やはり専門家である私たち歯科医師です。
実は、歯科医院で行う専門的なクリーニング「PMTC」を受けるだけでも、表面の汚れが落ちて、ご自身の歯本来の明るさを取り戻せる方は非常に多いのですよ。
歯科医院で受けられるホワイトニングの種類
専門家の診断のもと、本格的に歯を白くしたい場合には、歯科医院で受けられるホワイトニングという選択肢があります。
主に2つの種類があり、ご自身のライフスタイルや希望に合わせて選ぶことができます。
種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
オフィスホワイトニング | 歯科医院で施術 | 短期間で効果を実感しやすい | 後戻りしやすい、費用が高め |
ホームホワイトニング | 自宅でご自身で行う | 色持ちが良く、透明感が出やすい | 効果を実感するまで時間がかかる |
どちらの方法がご自身に合っているか、費用はどのくらいかなど、まずは気軽に相談してみてください。
それこそが、安全に理想の白さを手に入れるための、何よりの近道です。
よくある質問(FAQ)
最後に、患者さまからよくいただく質問にお答えしますね。
Q: 市販のホワイトニング歯磨き粉に、本当に歯を白くする効果はありますか?
A: 歯の表面についた着色汚れ(ステイン)を落とし、歯本来の色に戻す効果は期待できます。
しかし、歯そのものの色を漂白して今以上に白くする効果はありません。
Q: 使用して歯がしみるようになりました。どうすれば良いですか?
A: すぐに使用を中止してください。
それは知覚過敏のサインかもしれません。
研磨剤などで歯の表面が傷ついている可能性も考えられますので、一度かかりつけの歯科医院で診てもらうことを強くお勧めします。
Q: 海外製のホワイトニング製品は効果が高いと聞きますが、使っても大丈夫ですか?
A: あまりお勧めできません。
海外製品には、日本では歯科医師の管理下でしか使用できない高濃度の薬剤が使われていることがあります。
日本人は欧米人に比べて歯のエナメル質が薄い傾向にあり、強い薬剤は歯や歯茎に深刻なダメージを与えるリスクがあるため、自己判断での使用は非常に危険です。
Q: 安全な市販品の選び方を教えてください。
A: 研磨剤(清掃剤)の配合が少ないものや、粒子が細かいものを選びましょう。
「ポリリン酸ナトリウム」や「薬用ハイドロキシアパタイト」など、汚れを浮かせて落としたり、歯の表面を修復したりする成分に着目するのも良い方法です。
Q: 結局、歯を白くしたいと思ったら、まず何をすれば良いですか?
A: まずは、かかりつけの歯科医院で「なぜ自分の歯が黄ばんでいるのか」を診断してもらうことが最も重要です。
着色汚れであればクリーニングで綺麗になりますし、歯本来の色であればホワイトニングが適応になります。
自己判断せず、専門家と一緒に最適な方法を見つけるのが一番の近道です。
まとめ
手軽に試せる市販のホワイトニング製品は、確かに魅力的です。
しかし、その多くは歯の表面の汚れを落とすものであり、使い方を誤ると大切な歯や歯茎を傷つけてしまうリスクも伴います。
- 市販品は「着色除去」、歯科医院は「漂白」と目的が違う
- 研磨剤や酸による歯へのダメージリスクがある
- 虫歯や知覚過敏がある方の自己判断は危険
- 詰め物・被せ物は白くならない
- 安全への一番の近道は、かかりつけ医への相談
特に、私たち世代の歯は、長年毎日の食事や会話を支えてきてくれた、かけがえのないパートナーです。
目先の白さだけを追い求めるのではなく、まずはお口全体の健康を第一に考えていただきたいのです。
ご自身の歯の状態を正しく知り、専門家である歯科医師に相談することが、安全に理想の白さを手に入れるための最も確実な一歩です。
この記事が、あなたの健やかで美しい口元を守る一助となれば幸いです。