差し歯とインプラントの違いをプロがわかりやすく解説!

最終更新日 2025年5月28日 by boyjackcl

「先生、差し歯とインプラントって何が違うんですか?」

診療中に患者さんからよく聞かれるこの質問。
見た目は似ているように思えても、実は根本的に異なる治療法なのです。

差し歯とインプラントの最大の違いは、ご自身の歯の根っこが残っているかどうか。
この一点が、治療選択を大きく左右します。

歯科医師として30年間、多くの患者さんの口腔内を診察してきた経験から言えることは、この違いを正しく理解している方が意外に少ないということです。

「歯を失ったから差し歯にしたい」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、歯根がなければ差し歯治療はできません。
逆に、健康な歯根が残っているのに「インプラントがいい」と言われる方もいます。

自分に合うのはどちらなのか?
その答えは、お口の状態と今後の人生設計によって決まります。

「違和感に気づいた今こそ、一歩踏み出すチャンス」です。
今回は、治療選択で迷われている方に向けて、差し歯とインプラントの違いを医療現場の実感を交えてわかりやすく解説いたします。

目次

差し歯とインプラントの基本構造と役割

差し歯とは?歯の根を残して使う治療

差し歯は、虫歯などで歯の大部分を失ったものの、歯根(歯の根っこ)が健康な状態で残っている場合に行う治療法です。

残った歯根に土台(コア)を立て、その上に人工の歯(クラウン)を被せる構造になっています。
家の建築に例えるなら、既存の基礎を活用して新しい家を建て直すイメージです。

差し歯治療で使用される土台は、主に金属製の土台(メタルコア)、ファイバー製の土台(ファイバーコア)、レジン製の土台などがあり、患者さんの口腔状態や希望に応じて最適なものを選択します。

差し歯の最大の特徴は、ご自身の歯根という天然の土台を活用できること。
これにより、噛んだときの感覚(歯根膜の感覚)を保つことができます。

インプラントとは?人工歯根から作る”第二の永久歯”

一方、インプラントは歯を根っこから失った場合に行う治療法です。

失った歯の部分の顎の骨に、チタン製の人工歯根(インプラント体)を埋め込みます。
そのインプラント体が骨と結合した後、上部に人工の歯を装着する仕組みです。

インプラントの構造は、顎の骨に埋め込む人工歯根である「インプラント体」、インプラント体と上部構造をつなぐ「アバットメント」、そして実際に見える歯の部分となる「上部構造」の3つの部品から成り立っています。

インプラントは「第二の永久歯」と呼ばれることがあります。
これは、天然歯とほぼ同等の機能を回復できるためです。

それぞれの治療の流れを比べてみよう

差し歯治療の流れ

差し歯治療は比較的シンプルな工程で進みます:

  1. 歯根の状態確認・虫歯治療
  2. 神経の治療(必要な場合)
  3. 土台の作製・装着
  4. 歯型取り
  5. 差し歯の装着・調整

通院回数は2〜4回程度、治療期間は約1〜2ヶ月が一般的です。

インプラント治療の流れ

インプラント治療はより複雑な工程を要します:

  1. 詳細検査・治療計画立案
  2. 一次手術(インプラント体埋入)
  3. 治癒期間(2〜6ヶ月)
  4. 二次手術(土台の装着)
  5. 上部構造の作製・装着

治療期間は3ヶ月〜1年程度と長期間にわたります。

この治療期間の違いが、患者さんの治療選択に大きく影響することも少なくありません。

治療選択の分かれ道:どんなときにどちらを選ぶ?

残せる歯根があるかが最大の判断ポイント

治療選択で最も重要なのは、歯根の状態です。

差し歯を選択できるのは、歯根が十分な長さと太さを持っており、大きな虫歯やひび割れがなく、歯周病の進行が軽度で、根管治療(神経の治療)が成功している場合です。これらの条件を満たさない場合は、抜歯を行いインプラント治療の適応となります。

診療中によくあるのが、「歯根の状態は微妙だけれど、なんとか差し歯で治療したい」というご要望です。
しかし、無理に差し歯で治療を行っても、数年後に歯根が割れて結局抜歯になってしまうケースがあります。

将来を見据えた治療選択が重要なのです。

年齢や健康状態による選択の違い

40代〜50代の選択パターン

この年代では、差し歯を希望する方は治療期間が短いことや費用が抑えられることを理由に選択され、一方でインプラントを希望する方は長期的な安定性や審美性の高さを重視される傾向があります。

40代後半から50代にかけて、歯周病の進行により歯を失うケースが増加します。
厚生労働省の調査によると、50〜54歳で平均2本、55〜59歳で平均3.1本の歯を失っています。

60代以降の選択パターン

60代以降では、全身の健康状態も治療選択に影響します。外科手術への不安からインプラントを敬遠される方や、骨密度の低下によりインプラント治療が困難な方がいらっしゃる一方で、「最後の治療」としてインプラントを選択される方もいらっしゃいます。

年齢だけでなく、その方の健康状態や価値観を総合的に判断することが大切です。

「見た目」「機能性」「費用」それぞれの優先度から考える

患者さんの優先順位により、最適な治療選択は変わります。

見た目を最優先にしたい場合

前歯など目立つ部位では、審美性が重要な判断材料となります:

  • 差し歯:保険治療では金属が見える可能性、自費治療なら天然歯に近い仕上がり
  • インプラント:歯茎の形も含めて自然な仕上がりが期待できる

機能性を最優先にしたい場合

しっかりと噛める機能を求める場合:

  • 差し歯:歯根膜の感覚が残るため、噛み心地が自然
  • インプラント:天然歯の約90%の噛む力を回復可能

費用を最優先にしたい場合

経済的な負担を考慮する場合:

  • 差し歯:保険適用で3,000円〜10,000円程度
  • インプラント:自費診療で30万円〜80万円程度

ただし、長期的な視点で費用対効果を考えることも重要です。
差し歯は7〜10年程度で交換が必要になることが多く、生涯にわたる総費用を計算すると、インプラントの方が経済的な場合もあります。

差し歯とインプラントのメリット・デメリット徹底比較

治療期間と回数:忙しい人に向いているのは?

現代社会では、多くの方が「できるだけ短期間で治療を終えたい」と希望されます。

差し歯のスピードメリット

「来月の結婚式までに前歯を治したい」

このようなご相談を受けることがあります。差し歯であれば、スケジュールに合わせた治療が可能です。

差し歯治療は通院回数が2〜4回程度と少なく、治療期間も1〜2ヶ月と短期間で完了し、外科手術も不要であるため、時間的な制約がある方にとって大きなメリットとなります。

インプラントの時間的デメリット

インプラント治療では通院回数が6〜10回以上、治療期間が3ヶ月〜1年と長期にわたり、手術後の安静期間も必要となるため、どうしても時間がかかります。

ただし、この時間をかけることで得られる長期的な安定性は大きなメリットです。

痛みや違和感の感じ方に差はある?

治療中の痛み

差し歯治療

  • 神経を取る場合は麻酔下で行うため、治療中の痛みは軽微
  • 治療後の痛みも通常は軽度

インプラント治療

  • 外科手術を伴うため、術後2〜3日は腫れや痛みが出る場合がある
  • 適切な痛み止めの服用で管理可能

装着後の違和感

差し歯

  • 歯根膜の感覚が残るため、自然な噛み心地
  • 初期の違和感は比較的少ない

インプラント

  • 歯根膜がないため、最初は若干の違和感を感じる方もいる
  • 慣れると天然歯とほぼ同様の感覚

長持ちするのはどっち?メンテナンスの観点から

差し歯の寿命と注意点

一般的な差し歯の寿命:

  • 保険適用の差し歯:7〜10年
  • 自費診療の差し歯:10〜15年

差し歯で特に注意が必要なのは、歯根の破折(歯の根が割れること)、二次虫歯(差し歯と歯の境目の虫歯)、そして歯茎の黒ずみ(メタルタトゥー)などのリスクです。

インプラントの寿命と維持管理

インプラントの寿命:

  • 10年生存率:90〜95%
  • 適切なメンテナンスで20年以上使用可能

インプラントで注意が必要なのは、歯周病類似の疾患であるインプラント周囲炎、上部構造の破損、そしてインプラント体の緩みなどのリスクです。

どちらも定期的なメンテナンスが寿命を大きく左右します。
特にインプラントでは、3〜6ヶ月ごとの専門的なメンテナンスが不可欠です。

実際の治療現場から:こんなケースではこう選んだ

30年間の臨床経験の中で印象深い症例をご紹介いたします。
患者さんのプライバシーに配慮し、複数の症例を組み合わせた内容となっています。

60代女性「歯周病が進行しているけどインプラントは可能?」

患者さんの状況

  • 60歳女性、専業主婦
  • 長年の歯周病で奥歯2本を失失
  • 残った歯も歯周病が進行

治療の検討プロセス

初回の相談では「入れ歯は嫌だからインプラントにしたい」とのご希望でした。
しかし、詳細な検査の結果、以下の問題が判明:

  • 顎の骨が歯周病により大幅に減少
  • 残った歯の歯周病治療が最優先
  • 骨造成手術が必要

最終的な治療選択

まず歯周病治療に半年間集中し、口腔内環境を改善。
その後、骨造成手術を併用したインプラント治療を実施しました。

治療期間は1年半と長期にわたりましたが、現在は快適に使用されています。

「時間はかかったけれど、今では何でも美味しく食べられます。やって良かった」

患者さんからの言葉です。

この症例から学んだこと
インプラント治療を成功させるには、まず口腔内環境の改善が不可欠。
急がば回れの精神で、基礎治療を丁寧に行うことが重要です。

50代男性「見た目重視で前歯をどうするか迷った結果」

患者さんの状況

  • 52歳男性、営業職
  • 前歯1本の歯根破折
  • 人前に出る仕事のため審美性を重視

治療の選択肢と検討

差し歯治療の場合

  • メリット:治療期間が短い、費用が抑えられる
  • デメリット:歯根が破折しており、再発リスクが高い

インプラント治療の場合

  • メリット:長期的な安定性、審美性の高さ
  • デメリット:治療期間が長い、外科手術が必要

最終的な治療選択

患者さんと十分相談した結果、インプラント治療を選択。
理由は以下の通りです:

  1. 営業職として長期的に安定した見た目を維持したい
  2. 破折した歯根での差し歯は再発リスクが高い
  3. 年齢的にまだ外科手術に耐えられる

治療結果

治療期間は6ヶ月間でしたが、周囲の歯と見分けがつかない仕上がりとなりました。

「最初は手術が怖かったけれど、思っていたより楽でした。見た目も自然で満足しています」

この症例から学んだこと
前歯のような審美領域では、長期的な視点での治療選択が重要。
患者さんのライフスタイルや価値観を十分に理解することが大切です。

40代女性「差し歯が繰り返し外れて…インプラントに変えた理由」

患者さんの状況

  • 45歳女性、パート勤務
  • 10年前に装着した差し歯が度々外れる
  • 歯根の状態が悪化

経過と問題点

差し歯を装着して5年目頃から、以下の問題が発生:

  • 年に2〜3回差し歯が外れる
  • 外れるたびに歯根が少しずつ削れる
  • 最終的に歯根が短くなりすぎて差し歯で支えきれない状態に

治療方針の転換

当初は差し歯の作り直しを検討しましたが、歯根の状態を詳しく調べた結果:

  • 歯根の長さが不十分
  • 歯根にひび割れの兆候
  • このまま差し歯を続けても数年で破折の可能性が高い

インプラント治療への移行

患者さんに現状を丁寧に説明し、以下の選択肢を提示:

  1. 差し歯の再作製(数年で再治療の可能性が高い)
  2. 抜歯→インプラント治療(長期的に安定)
  3. 抜歯→ブリッジ治療(隣の健康な歯を削る必要)

結果と患者さんの感想

最終的にインプラント治療を選択され、現在3年が経過。
トラブルなく使用されています。

「最初はインプラントなんて考えてもいなかったけれど、もう差し歯が外れる心配をしなくて済むのが本当に楽です」

この症例から学んだこと
差し歯治療の限界を見極め、適切なタイミングで治療方針を変更することの重要性。
患者さんには将来のリスクも含めて丁寧に説明することが大切です。

予防とメンテナンスの重要性

差し歯もインプラントも”使いっぱなし”はNG

これは私が患者さんによくお伝えする言葉です:

「差し歯もインプラントも、治療が終わったときがスタートライン。本当の勝負はその後のお手入れにかかっています」

どちらの治療を選択しても、長期的な成功のためには適切なメンテナンスが欠かせません。

差し歯のメンテナンスポイント

日常的なケア

  • 境界部分の丁寧な歯磨き
  • フロスや歯間ブラシの使用
  • 硬いものを噛むときの注意

専門的なメンテナンス

  • 3〜6ヶ月ごとの定期検診
  • レントゲンによる歯根の状態確認
  • 歯茎の健康状態チェック

インプラントのメンテナンスポイント

日常的なケア

  • インプラント専用の歯ブラシやフロスの使用
  • 歯茎のマッサージ
  • 禁煙(インプラント周囲炎のリスクを下げるため)

専門的なメンテナンス

  • 3〜4ヶ月ごとの定期検診
  • インプラント周囲の清掃
  • 噛み合わせの調整
  • レントゲンによる骨の状態確認

歯科医がすすめる毎日のケア習慣

基本の歯磨き法

差し歯・インプラント共通の基本ケアとして、朝起きてすぐの歯磨きで夜間に増殖した細菌を除去し、食後30分以内の歯磨きで食べかすの除去と酸の中和を行い、そして1日で最も重要となる就寝前の丁寧な歯磨きに時間をかけることが大切です。

補助的清掃用具の活用

フロス(糸ようじ)

  • 歯と歯の間の汚れ除去
  • 差し歯やインプラントの境界部分の清掃

歯間ブラシ

  • 歯茎が下がっている部分の清掃
  • サイズ選択が重要

洗口液

  • 殺菌効果による細菌数の減少
  • ノンアルコールタイプがおすすめ

トラブルを未然に防ぐために通院でできること

定期検診の重要性

早期発見・早期治療の効果

定期検診により発見できる問題:

  • 差し歯の緩みや破損の兆候
  • インプラント周囲炎の初期症状
  • 噛み合わせの不具合
  • 他の歯との関係性の変化

メンテナンス頻度の目安

  • 差し歯:3〜6ヶ月ごと
  • インプラント:3〜4ヶ月ごと
  • リスクの高い方:2〜3ヶ月ごと

プロフェッショナルケアの内容

歯科衛生士による専門的清掃

  • 歯石の除去
  • バイオフィルムの破壊
  • 研磨による汚れの除去

歯科医師による診査

  • レントゲン検査
  • 噛み合わせの確認
  • 全体的な口腔状態の評価

個別指導とアドバイス

  • その方に適したブラッシング指導
  • 清掃用具の選択アドバイス
  • 生活習慣の改善提案

まとめ

差し歯とインプラントの「違い」を理解していただけたでしょうか。

最も重要なポイントを改めてお伝えします:

  • 治療選択の決め手は歯根の有無
  • どちらも適切なメンテナンスが成功の鍵
  • 年齢や生活スタイルに合わせた選択が大切

私が30年間の臨床経験で学んだことは、「完璧な治療法は存在しない」ということです。
大切なのは、その方の口腔状態、年齢、価値観、ライフスタイルを総合的に考慮して、最適な選択肢を見つけることです。

治療は”今の歯”と”これからの生活”の両面から考えることが大切です。

短期的な利便性を優先するか、長期的な安定性を重視するか。
費用を抑えたいか、機能性や審美性にこだわりたいか。

どちらを選択しても、その後のお手入れと定期的なメンテナンスが治療の成功を左右します。

「違和感に気づいた今が、一歩踏み出すチャンスです。」

歯の問題は放置しても改善することはありません。
むしろ、時間が経つほど治療選択肢が狭まり、治療が複雑になることが多いのです。

もし今、歯の違和感や不安を感じていらっしゃるなら、ぜひ歯科医院にご相談ください。
一人一人の患者さんに最適な治療計画を一緒に考えさせていただきます。

あなたの大切な歯を、これからも長く健康に保てるよう、私たち歯科医療従事者がサポートいたします。