小児矯正と大人矯正、始めるならどっちがいい?

最終更新日 2025年5月28日 by boyjackcl

「うちの子の歯並び、気になってきたけれど、いつから始めるのがベストなの?」

「私はもう40代だけど、今から矯正しても意味があるのかしら?」

30年間、多くの患者さんとお話しする中で、このような質問を数え切れないほど受けてきました。

子どもの矯正と大人の矯正、それぞれには確かに「得意分野」があります。

小児矯正は成長の力を借りて骨格レベルでの改善ができる一方で、大人の矯正は自分の意思でしっかりと治療に取り組める強みがあります。

でも、どちらが「良い」「悪い」という話ではないのです。

大切なのは、あなたやお子さんの状況に合った「最適なタイミング」を見つけること。

歯科医師として率直にお伝えしたいのは、「どちらがいいか」ではなく、「どちらがあなたに合うか」を一緒に考えましょうということです。

今日は、私がこれまで診てきた患者さんの実例も交えながら、それぞれの特徴と「始めどき」の真実をお話しします。

小児矯正のメリットと課題

成長期を活かせる骨格へのアプローチ

小児矯正の最大の魅力は、やはり「成長という味方」がいることです。

6歳から12歳頃の混合歯列期は、乳歯と永久歯が入り混じる特別な時期。

この時期の子どもたちの顎の骨は、まだ柔らかく成長途中です。

つまり、歯を並べるスペースそのものを「育てる」ことができるのです。

例えば、上顎が小さくて歯が重なって生えてきそうな場合、拡大装置を使って顎の幅を広げることで、将来永久歯がきれいに並ぶ土台を作れます。

これは大人の矯正では難しい、小児矯正ならではのアプローチです。

特に受け口(反対咬合)のようなケースでは、3歳から4歳という早い時期からの治療が推奨されます。

骨格的な問題は、成長が進むほど改善が困難になるからです。

癖や習慣を早期に改善できる可能性

「指しゃぶりがやめられなくて…」

「いつも口がポカンと開いているんです」

このような相談をよく受けます。

実は、これらの悪習癖は歯並びに大きな影響を与える要因の一つです。

小児矯正では、単に歯を動かすだけでなく、こうした習癖を改善することも重要な目的となります。

  • 指しゃぶりによる開咬(前歯が噛み合わない状態)
  • 口呼吸による上顎の劣成長
  • 舌の悪習癖による歯列の乱れ

これらは早期に対処することで、将来的な大きなトラブルを予防できる可能性があります。

口周りの筋肉のバランスを整える筋機能訓練も、この時期だからこそ効果的です。

費用・通院期間・保護者の協力が求められる現実

しかし、小児矯正には現実的な課題もあります。

まず費用について率直にお話しすると:

第1期治療の費用相場

  • 検査・診断:3~10万円
  • 装置代・治療費:10~60万円
  • 調整料:月5,000~10,000円

第1期治療で完了すれば良いのですが、多くの場合、永久歯が生え揃った後の第2期治療が必要になります。

その場合、追加で30~50万円程度の費用がかかります。

治療期間も長期にわたります。

第1期治療だけで1~3年、経過観察期間を含めると中学生頃まで続くことも珍しくありません。

何より大変なのは、取り外し式の装置を使う場合の管理です。

「装置をなくしてしまった」

「嫌がって使ってくれない」

こんなお悩みを抱える保護者の方は少なくありません。

親として考えるべき判断基準とは

では、親として何を基準に判断すればよいのでしょうか。

私が患者さんにお伝えしている判断基準は次の通りです:

お子さんの協力について

治療の必要性を理解し、装置をきちんと使えるかどうか。

歯磨きなどのケアを責任を持ってできるかどうか。

これらは治療成功の大前提となります。

家族のサポート体制について

定期的な通院が可能か、装置の管理や声かけができるか。

小児矯正は「家族みんなで取り組む治療」と言っても過言ではありません。

治療の緊急性について

骨格的な問題があるか、悪習癖による影響が深刻かどうか。

これらを総合的に判断して、治療開始時期を決定します。

「みんなやっているから」ではなく、あなたのお子さんにとって今が最適なタイミングかどうか。

これを慎重に見極めることが大切です。

大人の矯正のメリットと課題

自分の意思で始められる納得感と継続力

大人の矯正の最大の強みは、なんといっても「本人の強い意思」です。

親に言われて仕方なく…ではなく、自分自身が「歯並びを治したい」と思って始める治療。

この違いは、治療の成果に大きく影響します。

装置の使用時間や歯磨きの徹底、通院の継続など、すべてにおいて協力的です。

マウスピース矯正で「1日20時間以上の装着」が必要な場合も、大人の患者さんは指示をしっかり守ってくださいます。

また、治療計画も立てやすいというメリットがあります。

成長が完了しているため、歯がどこまで動くか、期間はどのくらいかかるかが比較的予測しやすいのです。

「結婚式までに治したい」

「転職前に済ませたい」

このようなライフイベントに合わせた治療計画も組みやすくなります。

審美目的だけではない、噛み合わせ改善の重要性

「見た目だけの問題だと思っていました」

多くの大人の患者さんが、治療を始めてから噛み合わせの重要性に気づかれます。

実は、大人の矯正で最も価値があるのは、機能的な改善かもしれません。

正しい噛み合わせを得ることで:

  • 食べ物をしっかり噛めるようになる
  • 顎関節の負担が軽減される
  • 歯周病のリスクが下がる
  • 肩こりや頭痛が改善する場合がある

30年の臨床経験の中で、矯正治療後に「食事が美味しくなった」「肩こりが楽になった」と喜ばれる患者さんを数多く見てきました。

単なる見た目の改善を超えた、生活の質の向上。

これこそが大人の矯正の真の価値だと私は考えています。

年齢によるリスクと限界—歯周病や骨の状態への配慮

しかし、大人の矯正には注意すべきリスクもあります。

特に40代以降の方で注意が必要なのは、歯周病の問題です。

「歯茎が腫れているうちは矯正治療はできません。まず歯周病治療から始めましょう」

このようにお伝えすることも少なくありません。

矯正装置が入ると歯磨きが難しくなり、歯周病が悪化するリスクがあるからです。

また、年齢とともに:

  • 歯の動きが遅くなる
  • 治療期間が長くなる
  • 歯茎が下がりやすくなる
  • 歯根が短くなるリスクがある

これらのリスクを十分に理解した上で治療を始めることが重要です。

治療中の生活への影響と工夫

大人の矯正で多くの方が心配されるのは、「仕事への影響」です。

営業職の方からは「装置が目立つと困る」というご相談をよく受けます。

現在では、このような心配に対応する選択肢も増えています:

  • 透明なマウスピース矯正(インビザライン等)
  • 歯の裏側に装置をつける裏側矯正
  • 白いブラケットを使用した目立ちにくいワイヤー矯正

食事制限についても工夫次第で乗り切れます。

硬いものや粘着性のあるものは避ける必要がありますが、日常の食事に大きな支障をきたすことは少ないものです。

重要なのは、ライフスタイルに合った治療方法を選ぶこと。

無理をせず、継続可能な方法を選択することが成功への近道です。

年代・ライフステージ別に見る「始めどき」

小学生〜中学生:タイミングと目的の違いに注意

小学生の時期は、矯正治療を始める「ゴールデンタイム」と言えるかもしれません。

ただし、学年によって治療の目的と方法が大きく異なることを理解しておきましょう。

小学校低学年(6~8歳):予防的アプローチ

  • 顎の成長誘導が主目的
  • 悪習癖の改善
  • 将来の本格治療の準備段階

小学校高学年~中学生(9~12歳):積極的治療

  • 永久歯の萌出スペース確保
  • 部分的な歯並び改善
  • 第2期治療への橋渡し

中学生になると、思春期特有の問題も出てきます。

見た目を気にし始める年頃のため、装置に対する抵抗感が強くなることがあります。

一方で、治療の必要性を理解し、協力的になる子も多いのがこの時期の特徴です。

20代〜40代:審美と機能のバランスをどう取るか

20代から40代は、社会生活と治療のバランスが最も重要になります。

この年代の患者さんの多くが直面する課題:

  • 仕事への影響を最小限に抑えたい
  • 費用を計画的に負担したい
  • 結婚や出産などのライフイベントとの調整

20代の特徴

  • 歯の動きがまだ比較的良い
  • 治療期間を短縮できる可能性
  • 見た目への関心が高い

30~40代の特徴

  • 機能面での改善を重視
  • 治療計画をしっかり立てたい
  • 歯周病への配慮が必要

この年代で治療を始める方には、必ず確認することがあります。

治療期間(通常2~3年)の通院が可能か、装置装着による見た目の変化を受け入れられるか、定期的なメンテナンスを継続できるかどうか。

これらすべてが「はい」という答えであれば、きっと良い結果が得られるでしょう。

50代以上:無理なく始められる矯正の条件とは

「50代からでも矯正できますか?」

この質問に対する私の答えは「条件が整えば、年齢は問題ありません」です。

実際、当院でも50代、60代から治療を始められる方は珍しくありません。

ただし、以下の条件をクリアしていることが前提となります:

歯周病が管理されていること、残存歯が20本以上あること、顎関節に大きな問題がないこと、全身の健康状態が良好であることが基本的な条件です。

50代以上の治療では、歯周病治療との連携、既存の被せ物との調整、治療期間の現実的な設定、メンテナンスの継続を特に重視します。

この年代の治療では、単なる歯並び改善ではなく、口腔全体の健康維持が主目的となることが多いです。

「孫の世話で忙しくて通院が…」という方もいらっしゃいますが、月1回程度の通院で済む治療方法もあります。

人生100年時代、50代はまだまだこれからです。

口元に自信を持って、より豊かな人生を送るためのお手伝いができれば嬉しく思います。

医師が伝えたい「始める前に考えるべきこと」

矯正の目的を明確にする:見た目か、機能か、両方か

治療を始める前に、必ず患者さんにお聞きすることがあります。

「なぜ矯正治療を受けたいと思われたのですか?」

この質問の答えによって、治療方針が大きく変わるからです。

主な治療目的の分類

審美的改善が主目的の場合:見た目のコンプレックス解消、笑顔に自信を持ちたい、人前に出る機会が多いなど。

機能的改善が主目的の場合:噛み合わせの問題、顎関節症の症状、歯周病の予防など。

予防的な観点からの場合:将来の歯の健康維持、虫歯・歯周病のリスク軽減など。

目的が明確になると、最適な治療方法や期間、費用も自然と決まってきます。

例えば、審美性を重視される方にはマウスピース矯正や裏側矯正をお勧めしますし、機能改善が主目的なら、しっかりとしたワイヤー矯正が適している場合もあります。

長期的な視点で考えるメリット・デメリット

矯正治療は、人生における大きな投資です。

だからこそ、短期的な視点ではなく、10年、20年先を見据えて考えることが重要です。

長期的なメリット 考察

治療費は確かに高額ですが、歯の寿命を延ばすことを考えれば、将来的な歯科治療費の節約にもつながります。

きれいに並んだ歯は掃除しやすく、虫歯や歯周病のリスクが大幅に下がるからです。

一方で、現実的なデメリットも

  • 治療期間中の通院負担
  • 装置装着による生活の制約
  • 痛みや違和感への対処
  • 後戻りのリスク

これらを天秤にかけて、本当に今治療を始めるべきかを慎重に判断することが大切です。

カウンセリング時に必ず確認したい3つのポイント

30年の経験から、治療成功のために重要だと感じる確認事項をお伝えします。

治療期間と通院頻度の現実性

「月1回の通院を2~3年続けられますか?」

この質問に「たぶん大丈夫」という答えでは少し心配です。

転勤の可能性、家族の状況、仕事の忙しさなど、具体的な生活状況を考慮して判断してください。

費用の支払い計画

矯正治療費は、多くの場合一括払いではなく、分割での支払いが可能です。

一般的な支払い方法

  • 検査時:3~5万円
  • 装置装着時:総額の50~70%
  • 調整時:月額5,000~10,000円

無理のない支払い計画を立てることで、治療に集中できます。

家族の理解と協力

特に小児矯正の場合、家族全体の協力が不可欠です。

装置の管理、食事の配慮、通院の送迎など、思っている以上に家族への負担があります。

事前にしっかりと話し合い、みんなで治療をサポートする体制を整えておきましょう。

まとめ

小児矯正と大人矯正、それぞれに「最適な時期」があることをお話ししてきました。

小児矯正の特徴

  • 成長の力を活用した骨格レベルの改善
  • 悪習癖の早期改善
  • 長期間の治療と家族の協力が必要

大人矯正の特徴

  • 自分の意思による高い継続力
  • 機能面での大きな改善効果
  • 歯周病管理との連携が重要

どちらを選ぶかは、年齢だけで決まるものではありません。

お子さんの成長段階、ご家族の状況、治療への意欲、経済的な準備など、総合的に判断することが大切です。

私が30年の診療経験から確信していること。

それは、「治療を始めるのに遅すぎることはない」ということです。

7歳のお子さんでも、57歳の大人の方でも、その人にとっての「最適なタイミング」があります。

大切なのは、正しい情報を知り、十分に検討し、納得した上で治療を始めること。

歯のトラブルは”ちょっとした違和感”の段階で気づけるかどうかが鍵です。

歯並びについても同じです。

「気になる」と感じた時が、まさに相談のタイミングかもしれません。

「今のあなた」に合うタイミングを、歯科医と一緒に見極めましょう。

一人ひとりの患者さんにとって最良の選択ができるよう、私たち歯科医師は全力でサポートいたします。

まずはお気軽に、ご相談にいらしてください。